大阪大学医学系研究科健康発達医学寄付講座教授 中神啓徳先生

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大阪大学医学系研究科
健康発達医学寄付講座教授

中神啓徳先生

―まず初めに、先生のご専攻と現在の再生医療の携わりについてお話いただいてもよろしいでしょうか?

大阪大学、医学系研究科健康発達学講座に所属しております。臨床的な専門は老年内科になります。基礎研究として、遺伝子治療学講座の立ち上げから携わってきたしたので、遺伝子治療や再生医療治療における法務的なルール策定等にも興味があり、同分野の初期段階から20年以上携わってまいりました。

―先生のご専攻である遺伝子治療の再生医療分野における現状と将来性についてお話いただいてもよろしいでしょうか?

遺伝治療は30年程の歴史であり、1990年に遺伝病に対して初めて遺伝子治療が行われました。近年ようやく上市された薬が販売開始され、ここ5年程度で米国市場を中心に非常に遺伝子治療が活発になってきました。やはり一つの新しい分野ができて、成熟して、治療薬が出来て、世の中に安定してその薬が届けられるまでは、ある程度の年月が必要となるという事を実感しております。再生医療は遺伝子治療に比べ実用化研究は約10‐20年程度遅れてのスタートになります。様々な困難が今起こっているとは思いますが、遺伝子治療のように薬として上市され安定して届くようになってきますと、様々な問題は抱えるものの、その治療薬のおかげで難治性疾患治療が治るという希望によって、研究のさらなる活性化という良いサイクルが生まれますので、再生医療にもそういった流れが出来上がることを期待していきたいと思います。

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―現在、代表的な問題となっているのはどのような点でしょうか?

歴史的に考えると、遺伝子治療が立ち上がった際も最初は過剰な期待が掛かりました。今まで治療が困難だった病気が治るのでは、という事で動物実験を経てヒト臨床試験をしていきますが、やはり最初から思ったような効果は得られません。最初の10年や20年ぐらいは失敗の繰り返しです。但し、そこで止めてしまうと次に繋がりませんので、少しずつ改良を重ねながら、進めていくのが重要です。一方で、安全性の面でプロトコル違反などが起き、重篤な有害事象が起こるケースもありますので、やはり当事者の方々が確りとルールを守りながら携わるという事を遵守していく重要性も再認識されまました。再生医療においても遺伝子治療学薬開発の歴史を参考にして、より改良された進め方をすることで薬を届けられるといったステップに繋がっていくものと思います。再生医療等製品は現状、薬価が高いです。通常治療における低分子化合物と比べると、作成するのに時間や労力が掛かりますので、1人1人の薬価が高いですが、これを広げようと考えたときに、例えば国民健康保険の対象とするのかなどの問題が起こってくるのではないかと考えております。

―これから再生医療が発展していくためにはどういったことが必要になってくるとお考えでしょうか?

これは議論が分かれところかもしれないですが、先程申し上げたように、遺伝子治療は現在希少疾患が対象となるお薬が軸であることから、保険診療の中に収載された事で将来的な課題がいくつか発生しています。一方で、再生医療は自由診療枠でやってきた実績や、自由診療でも認定委員会を設けて倫理性を担保して行っているという素晴らしい制度を有していますので、そういった部分をうまく活用しながら、エビデンスを出しつつ世の中へ広げていくことを期待したいと思います。

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― 一般社団法人再生医療安全推進機構は、再生医療業界の課題や問題を解決すべく、安全性を第一とした理念を持った活動を行っております。先生より当機構が担うべき役割や求められる姿はどういったものがあるかを教えていただけないでしょうか?

遺伝子治療における歴史の面から見ますと、どうしても研究者側は研究を早く進めたいと思って、プロセスを簡略化してリスクを背負っても進みたがる傾向があります。ただ、やっぱりそこは第三者が確りと安全性を担保しながら、必要なときはブレーキをかけてあげるべきだと思います。但し、必要以上にブレーキを掛けてしまうと物事が進まなくなるので、そういった部分を上手にハンドリングできるような役割を担って頂ければ、円滑に研究が進むのではないかと思っております。

―最後の質問になりますが、再生医療業界にメッセージをいただけますでしょうか?

現在でも治らない病気は数多くあります。ゲノム診断等で病理診断は急速に判明するようになってきましたが、それに対して我々アカデミアの治療法開発が少し遅れ気味だと思っております。そこをうまく民間企業の方々と一緒になって解決に取組んでいきたいと思います。

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