弁護士法人至誠法律事務所 齋藤健一郎先生

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弁護士法人至誠法律事務所

齋藤健一郎先生

―齋藤健一郎先生のご紹介

再生医療、医療法、医薬品医療機器等法などを専門としており、再生医療も主要な業務分野のひとつです。再生医療に関するクライアントがいらっしゃいます。

―齋藤先生の考える再生医療業界の問題点を教えていただいても宜しいでしょうか。

再生医療もピンきりすぎて、はい。もうなんていうのでしょうかねきちんとしたところからそうでないところまでの落差が激しすぎるのです。再生医療という言葉についても例えば医療機関が持っている、あるいはその再生医療に関わる企業群が持っているイメージと、消費者が持っているイメージがだいぶ離れている。

例えば幹細胞培養上清液は再生医療であるというふうに消費者は考えていますが、実際は法律が定義する再生医療等ではないわけですから、そういった認識の違いをうまく利用して幹細胞培養上清液は再生医療であるといって実質、水のようなものを高い価格帯で医師が利用していくという実態もあり、闇が深い業界だなと思っています。

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―幹細胞培養上精液/エクソソームについてはどのようにお考えでしょうか。

安全性と有効性について、わけてお話しします。

先ず安全性についてです。これは幹細胞培養上精液/エクソソームに関わらず、再生医療もそうですし通常の医療もそうですし、安全性に関してきちんと担保ができているものでなくてはならない。小林製薬の件でもそうですけれども、やはり人体に投与する治療に用いる以上安全性は確保しておかなきゃいけないということになります。そして、幹細胞培養上精液/エクソソームは承認医薬品ではありませんからその安全性の確保等は利用する医師の責任であるところ、例えば出所がよくわからない、安く仕入れられるので、利益が得られるからといってよくわからない幹細胞培養上精液/エクソソームを利用しているところもあるやに聞いています。現に、安全性に問題がある幹細胞培養上精液/エクソソームを利用することで健康被害が生じているといったような情報にも接しているところです。

例えば近時政府が運用している「事故情報データベース」、消費者センターに寄せられた苦情をこのデータベースに反映させていると承知しておりますが、そのデータベースの中にも幹細胞培養上精液/エクソソームを用いた治療に対する苦情が掲載されるようになってきています。データベースの内容は、消費者の主張だけを前提としていますから、その正確性については確実なものではないとは思いますが、やはり、安全性に問題のあるようなものが使用されている可能性は否定できないなというふうに思っているところです。

次に、有効性に関してですが、有効性につきましては、エビデンスレベル、例えば、ケーススタディーから臨床研究、ヒト臨床、システマティックレビュー等様々なエビデンスレベルがあります。エビデンスレベルが低いから治療してはならないということにはなりませんが、やはりきちんとした治療について説明をしなければならない。消費者、患者が理解した上で治療を受けるかどうかを決めることができるような状況に持っていかなきゃいけない。有効性に関して、私が問題だと思っているのが、治療効果が確実であるという広告です。

これ非常に多いんですけれども、これは医療法の広告規制の中で虚偽広告とされています。治療効果というのは個人の状態ですとか、治療の内容等によってさまざまであり、確実に効果が得られるものじゃないんです。そうであるにも関わらずあたかも、確実に一定の効果が得られるように述べるのは虚偽に当たります。

虚偽広告については刑事罰がありますからそういった違法な広告、これは幹細胞培養上精液/エクソソームに限ったことではありませんけれども、そういう広告が広く行われているとすれば、これは憂慮すべき状況であると思います。有効性に関してはそういった不適切な、あるいは事実と異なる情報が流布している状況にあると承知しています。

以上のように、幹細胞培養上清液/エクソソームに限ったことではありませんが、これらについては、総じて安全性有効性に関して問題があるケースを多数目にしている状況です。

―患者が安全に再生医療を受けるための環境整備としてどのようなことが必要であると思われますか?

安全に受けられるということについて、極論を言ってしまえば承認薬しか使わないというところだろうと思いますけれども、承認されていない治療は、どんなによい治療であっても受けられないということにもなってしまいますから、これはちょっと現実的ではない。そこまでのレベル感で求めないとすれば、例えば安全性に関しては医師の責任においてその当時、その時点である情報を全て集めて検討してかつ適切な医薬品を自らの責任で選択し、必要な情報を患者にもれなく説明する、そういった責任を医師がきちんと果たすということだろうと思います。

―多くの医療機関のH P等で再生医療に関するページでは「厚生労働省から許可を受けた医療機関」であると書かれていることがございますが、再生医療等の提供に関する正しい表記に関して、お話しいただいても宜しいでしょうか。

まず一般的に承認や許可というのは、その承認や許可を求める相手がそういった承認許可を与える権限を持っているときに、許可権者、承認権者の判断として承認する、その許可権者の判断として許可するというときに使われる行政上、法律上の文言です。一方で届出というのは別にそういった判断を全く行政側は行わない場合に使われます。例えば機能性表示食品は届出になっているわけですけどもこれはその届け出の内容の適不適について消費者庁側は何らの判断を行わない、単に届け出をするにあたって形式的な要件が満たされているかどうかだけを見てそれでOKだったらこれを受理します、というだけの話です。それが届出であり、届け出の内容の適切性不適切性については、届け出を受けた側はお墨付きを与えるものではありません。

一方で許可はその許可の申請を受けたものについてその内容が適切かどうか、当局が精査して一定の判断を下します。その結果として許可を出します。いわゆる届出は、事業者側からの一方通行の行為であるのに対して、許可承認は申請を受けたものの、答えとして返ってくるものといったようなイメージで捉えていただければと思います。

そして再生医療等を患者に提供することについて、正しい表現は、基本的に届出になります。再生医療等委員会の審査を経て厚労省に届け出をして、その上で行っている。法律に従った手続きを経て行っている治療です、ということだけです。再生医療等の提供において、厚生労働省は治療を許可するわけでもなく承認するわけでもございません。そうであるにもかかわらず、あたかも当該医療機関が提供する治療について、厚生労働省が許可や承認、もっとわかりやすい言葉でいえばお墨付きを与えているような表現は、当局は最も嫌います。関係当局の名前を使われたりですとか、事実と異なる広告については行政指導等も盛んです。

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―本日お話しいただいた再生医療業界の問題を受けて、当機構(一般社団法人再生医療安全推進機構)が果たすべき役割や求められる姿として先生のお考えをお聞かせいただいても宜しいでしょうか。

やっぱり正確な情報の発信でしょうね。安全性の情報もそうですし、有効性の情報もそうですし、正確な情報を発信していくことは多くの患者さんが適切な判断をする上で何より大事です。一方で、ここが駄目。あれが駄目。とあまりにも足を引っ張るようなことになってしまいますと、それは業界全体を萎縮させることになってしまう。私はバックグラウンドが分子生物学ですので分子レベルから機序が明らかになってこうなると決まっていかないと気持ち悪いんですね。例えば視床下部から出たホルモンについてどういう経路でどういうカスケードで実際に下流に変化が起こるのか。分子レベルからわからないと気持ち悪いんですけれども、医療というのはそういうものではなくて、何かわからないけど効くというものがあるわけです。例えば漢方なんかまさにそうでして、作用機序や各有効成分の相互作用ですとか、機序がブラックボックスだけどこれを入れたらこれが出てくるっていうのがあるわけです。よくわからないけど、やってみたらこういった結果が出た、広くやってみよう、そしたらこういう結果がでるじゃないか、そういった経験が積み重ねで、後追いでロジックがついてくる。ロジックがついた後じゃないと治療ができないってことになってしまうと患者が望む治療ができないことにもなりますし医療の進歩はなくなってしまいます。なのでそういった不確実性がある中で手探りで進めていかなければならない。それを果敢に進めていくことが医師の責務というか、なんていうのでしょうか、専門家としての力の見せ所なわけであって、安全性が、有効性が駄目ってあまりにも禁圧してしまうと何も進まなくなってしまうわけです。

なので、適切な手続き、いくら治療を進めていきたいからといって勝手に人体実験やることは許されてませんから、定められたスキームの中で、法律の中で最大限医師が伸び伸びというか、様々なこの治療を行っていけるような、そういった後押しも一方でしていただきたいんですよね。

安全性に問題だ!有効性にエビデンスがないんじゃないか?あるいは製品に問題がある。そういった問題点の指摘はさることながら、一方でちょっと希望が見えるような、医師全体の業務が、より一層適切にできるようなそういった投資をしていただければ一番いいなと思います。お金を儲けたいがためだけに医師に対し、不適切な商品を虚偽の広告で売りつける。そして、医師はそれを知らず、あるいはそれを知りながら患者に不適切な治療を行う。そういったことを禁圧はもちろんしていただきたいですけれどもそこを区別できるような良質な情報発信をしていただけたら、これは医師のみならず国民のためになるんだろうなというふうに思います。

―最後に再生医療業界に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。

再生医療は我が国が世界をリードしなきゃいけないものですよ。これはとても大事なもので諸外国から見てもとても魅力的に見える。大上段に構え過ぎかもしれませんけれども我が国のためになるものですからもうぜひともどんどん進めていってほしいなと。素晴らしいものであるだけに大事にしながら、広く進めていっていただけたらいいんじゃないのかなというふうに思っております。

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