セミナーレポート『美容医療 × 再生医療の最前線』——脂肪幹細胞&PRPのリアルに迫る

こんにちは、マサニャンです!
今回は、またまたセミナーレポートをお届けします。

2025年4月19日、大阪で開催された「第二回再生医療抗加齢学会学術総会」で、大慈弥裕之大会長企画シンポジウム「美容医療と再生医療」が開催されました。

再生医療って聞くと「治療」のイメージが強いかもしれませんが、実は今や美容医療の分野では再生医療の導入が急速に進んでおり、その応用範囲と実践方法は多岐にわたります。
しかしながら、科学的根拠の乏しい治療が氾濫している現状において、エビデンスベースの医療実践を共有することが強く求められています。

今回のシンポジウムでは、現場で実際に治療を行っている専門の先生方3名が登壇し、脂肪由来幹細胞やPRPの最新の美容応用、臨床効果、安全性、課題について講演を行いました。
再生医療技術が美容領域に本格進出する中、「科学的根拠に基づく安全な治療」の重要性が叫ばれています。

本稿では、脂肪幹細胞やPRPを活用した最新治療の臨床応用と課題をレポートします。

講演①
自家脂肪由来幹細胞を用いた美容皮膚科治療

講演者:井上啓太 先生(アベニューセルクリニック)

脂肪組織からの幹細胞採取の進化

井上先生は、形成外科医としてのバックグラウンドを活かし、従来の脂肪吸引を用いた幹細胞抽出に代わり、低侵襲な「米粒大脂肪片採取+エクスプラントカルチャー法」を紹介しました。これにより、組織ダメージが少なく、均質な脂肪幹細胞(ADSCs)が安定的に得られるとのことです。

生細胞にこだわる理由

細胞製剤は一度凍結すると、炎症環境下での生存率や接着能が著しく低下することが実験データから明らかになっており、井上先生のクリニックでは、投与前に必ず再培養し、「生きた状態」で細胞を患者に投与することを徹底しています。

臨床応用と評価指標

治療対象は加齢皮膚で、水光注射法により真皮浅層に注入。評価は主観的感触とともに、ビジア(VISIA)による肌年齢やしみ・毛穴スコア等で測定されています。

  • トーンの明度やしみ、毛穴において長期的改善効果あり
  • 皮膚物性計測(キュートメーター)では水分量や弾性の改善も確認
  • 副作用はほとんどなく、患者満足度も高い傾向

講演②
培養自家脂肪幹細胞の単回皮膚注入による顔面皮膚の若返り効果

講演者:市橋正光 先生(BTRアーツ銀座クリニック)

注入法と治療対象

市橋先生は、培養した自家脂肪幹細胞を1回のセッションで顔面に皮内注射することで得られる美容効果について発表されました。注入部位は目元や口元、ほうれい線、まぶたなど。30~32G針を用いた水光注射を実施し、深さ0.6~1.2mmという精密な施術を行っています。

観察された効果と持続性

  • 小じわ・毛穴:1〜2週間で明確な改善
  • 肌のハリ・ツヤ・二重形成:3ヶ月以降の定着効果あり
  • 持続期間:およそ1年間

特に「二重まぶたの明瞭化」や「毛穴縮小」は多くの患者に認められ、男性例でも顕著な変化が見られたといいます。

メカニズムと考察

幹細胞が真皮内に長期生存することで、局所の繊維芽細胞活性化、コラーゲン・ヒアルロン酸産生促進が誘導されると考察。さらに、老化細胞の除去作用の可能性にも言及されていました。

講演③
PRP療法と美容医療における現状と課題

講演者:楠本健司 先生(くすもと形成外科)

PRPの基本と臨床応用

楠本先生は、PRP(多血小板血漿)を用いた美容再生療法の第一人者として、創傷治癒機構を活かした自然治癒力の活性化療法を解説されました。

  • 臨床的効果:小じわ、中等度のシワ、たるみに効果あり
  • 患者の安心感:自己血液由来という点が心理的安全性につながる

PRPの合併症と法的課題

PRPと他製剤(例:bFGF)を混用した場合、異常な隆起、脂肪腫様の膨張、場合によっては潰瘍化や失明といった重篤な合併症が報告されています。これは再生医療等安全性確保法の届出制度の運用の甘さ、審査体制の質のバラつきにも起因しており、業界全体のリスク認識と規制強化が急務と訴えられました。

パネルディスカッションのまとめ

質疑応答では、リアルな声が多数飛び交いました!

  • 治療効果の持続性は?→ 脂肪幹細胞注入では1年程度、PRPでも条件次第で長期効果あり

 

  • 安全性は?→ 適切な投与量・投与深度に注意を払えば、幹細胞治療で重篤な合併症は起こりにくい

 

  • 患者満足度は?→ 治療直後から効果が実感できるため、特に毛穴縮小において高い満足度

 

  • 毛髪再生にも使えるの?→ 理研等で基礎的な裏付けがあり、実施例も増加傾向

 

マサニャンのひとこと

本シンポジウムは、美容と再生医療が融合する未来に向けて、安全性と有効性を両立させる必要性を再確認する重要な機会となりました。

細胞治療、PRP、エクソソームといった革新的な技術は、高いポテンシャルを持つ一方で、未整備なルールと粗雑な臨床応用が問題を引き起こしています。

患者の期待に応えつつ、医学的根拠に基づく治療をいかに普及させるか」——この問いに向き合うことこそが、美容医療の未来を形作る鍵となるでしょう。

※本記事はセミナー当日の講演内容と質疑応答を基に構成しています。専門的判断を要する医療行為に関しては、各医療機関・医師の指導のもとご相談ください。

 

 

用語解説

エクスプラントカルチャー法

組織片を直接培養皿に置き、そこから細胞を自然に遊出させて増殖させる低侵襲な培養法。

水光注射(Mesogun Injection)

極細の針を用いて皮膚浅層に薬剤や細胞を均一注入する技術。美容医療で皮膚再生や保湿に広く用いられる。

ビジア(VISIA)

肌の状態を定量的に評価する画像解析装置。しみ、毛穴、肌年齢などを測定。

キュートメーター(Cutometer)

皮膚の弾性、柔軟性、粘弾性などの物理的特性を測定する装置。医療・化粧品の研究でも用いられる。

bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)

細胞増殖を促す強力な成長因子。PRPと併用されることもあるが、過剰使用により副作用の報告も。