無届けの再生医療を100人超に提供 「福岡MSC医療クリニック」に行政指導 ~再生医療業界に対する懸念点

こんにちは、マサニャンです。
今回のブログでは、2024年3月5日に厚生労働省が公表した「福岡MSC医療クリニック」の無届け再生医療提供問題について取り上げ、再生医療業界全体に与える影響や今後の懸念点について考察します。

事件の概要

https://www3.nhk.or.jp/fukuoka-news/20250305/5010027327.html

https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/iji/saiseiiryou/newpage_00730.html

厚生労働省は3月5日、医療法人聖慈会が運営する「福岡MSC医療クリニック」(福岡市中央区)で、100人以上に無届けの再生医療が提供されていたと公表しました。
九州厚生局長は同日付で、クリニック管理者の深松建史氏と医療法人に対し、再生医療安全性確保法に基づく改善命令を出しました。

再生医療提供計画の未提出や無届治療が発覚

厚労省によると、同クリニックでは患者自身の組織から幹細胞を取り出して加工し、肝障害や動脈硬化などの治療を目的とした自由診療の再生医療を提供していました。
しかし、以下の治療については再生医療安全性確保法に基づく計画の提出を怠るなどの法令違反を繰り返していたことが判明しました。

 

計画未提出

  • 自己脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた肝障害治療の副作用抑制(むくみ予防)

 

無届けで提供された治療

  • 自己脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた膝関節治療

  • 自己脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた肌再生治療

 

2018年11月~2024年1月の間に、のべ111人に無届けの再生医療が提供されていたと報告されています。

法令違反の詳細

これらの医療行為は、本来事前に計画を提出し、適正な基準の下で提供されるべきものでした。しかし、福岡MSC医療クリニックは適切な手続きを行っていなかったことが判明しました。
さらに、以下のような多くの法令違反が確認されました。

 

  • 救急医療体制の不備:緊急時の対応が整備されていない

  • 細胞加工や品質管理の不徹底:適正な品質管理基準が守られていない

  • 記録の作成・保存の不実施:治療の詳細な記録が管理されていない

  • ・疾病等の発生報告義務違反:副作用や異常の報告が適切に行われていない

 

これらの違反行為を重く見た厚生労働省は、医療法人聖慈会に対し、事前の計画提出と基準遵守の徹底、安全管理体制の強化を求める改善命令を出しました。

患者の安全性に関する懸念

1.リスクの増大

法令に基づかない治療の実施は、適正な管理がなされない状態での医療行為を意味し、感染症や予期しない副作用等のリスクを高める可能性があります。そのため、患者の安全が確保されない状況が生じる恐れがあります。

 

2.安全性評価の不透明性

治療が十分な審査や検証を経ずに実施される場合、客観的な安全性評価が不可能となり、患者が安心して治療を受けられない状況が生じる可能性があります。

 

3.業界全体の信頼性の低下

  • イメージの悪化

一部の医療機関による法令違反が報道されると、再生医療全体の社会的信頼が低下し、正規の手続きを踏んでいる施設に対しても疑念が生じる可能性があります。これにより、業界全体の信用が損なわれる恐れがあります。

 

  • 正当な治療への影響

違反事例が広がると、正規の再生医療施設での治療も「安全でない」と誤解されるリスクがあり、再生医療の普及や発展に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

4.法規制の強化と業界発展への影響

  • 過剰な規制のリスク

今回のような違反事例が増えると、行政側は安全確保のためにより厳格な規制を導入する可能性があります。しかし、過剰な規制は正当な研究開発や治療の進展にブレーキをかける要因となり、技術革新の妨げになるリスクが指摘されます。

 

  • 研究や治療の停滞

規制強化により行政手続きが煩雑化すると、正規の手続きを踏んだ治療提供や研究活動の進行が遅れ、再生医療分野全体の発展が阻害される恐れがあります。

 

5.患者の治療選択への影響

  • 治療受診への不安

違反事例が報道されることで、「本当に安全な治療が受けられるのか?」という患者の不安が高まり、必要な治療の受診をためらう要因になる可能性があります。

 

  • 情報の信頼性

患者が信頼できる情報を得られないと、治療選択に際して十分な判断が下せなくなることも懸念され、患者自身の健康管理に直接的な影響を及ぼすため、重大な問題と言えます。

 

結論

今回の事例は、再生医療業界における安全性確保と法令遵守の重要性を改めて示すものです。

 

  • 患者の安全を最優先に考え、適正な手続きと厳格な管理体制を確立することが不可欠

  • 業界全体の信頼性を維持するために、透明性のある運営と情報共有が求められる

  • 行政側も、過剰な規制と正当な治療提供の促進とのバランスを慎重に検討し、再生医療の健全な発展を支える必要がある

 

再生医療は大きな可能性を秘めた分野である一方、今回のような事件が業界全体の信用を低下させるリスクがあります。適切な規制のもと、安全で効果的な再生医療を発展させるためには、医療機関の法令遵守、患者への正確な情報提供、行政の適切な監督が不可欠です。

 

今後も、業界の動向に注目しながら、患者が安全に治療を受けられる環境の整備が進むことを期待したいと思います。