再生医療で起こった患者を裏切る“恣意的な”治療
── 体感演出のため、NAD+を無断添加問題したことが示す深刻な構造
今回、時事通信の報道で、再生医療を専門とする東京都千代田区のクリニックが「自己脂肪由来幹細胞」の点滴投与時に、厚生労働省へ届け出た提供計画に記載のない試薬「NAD+」を勝手に混ぜていた事案が明らかになった。
再生医療は、再生医療安全性確保法という専用の法律が設けられています。再生医療を行おうとする医療機関は、再生医療等委員会にて厳格な審査を受けたのち、提供計画書を厚生労働省に届け出て初めて治療が認められる“極めて厳密なプロセスの上に成り立つ医療”なのです。
その根幹を、医師の恣意的な判断で踏みにじった今回の行為は、単なる不適切運用では済まされないものといえるでしょう。患者を裏切り、治療の安全性を揺るがし、再生医療を発展させるために取り組む研究者や医療者の努力を無にしかねない深刻な行為です。
これは単なる運用ミスではなく、 患者の信頼を裏切る行為であり、再生医療の健全な発展を揺るがす重大事案ともいうべきものなのです。

■ 計画書にはないNAD⁺を「体感演出」のために患者に無断で使用
問題となったのは、幹細胞の点滴に添加された「NAD⁺(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)」です。これは細胞の代謝に関わる補酵素ですが、医療目的での効果は十分に確立されていないものです。
にもかかわらず院長は、スタッフとのLINEの中で以下のように述べていました。
-「幹細胞治療は体感実感が分かりにくい治療なので、何か体感面の工夫が必要。最も効果的なのはNADとみた。」-
つまり・・・医師自身のために“患者への演出”目的で、勝手に薬剤を混ぜたということです。
- 医学的根拠ではなく、
- 安全性評価ではなく、
- 患者の利益でもなく、
- “体感を良く見せるため”という利己的な判断で行われた操作なのです。
患者は治療内容に同意したうえでお金を支払い、未来への希望を託して治療を受けています。その期待に対して、計画外の薬剤を混ぜる行為は、事実上の裏切りともいえる行為です。
幹細胞治療そのものの効果ではなく、“投与後の体感を良く見せるため、効果の演出”するためにNAD+を混入したということになるのです。まさに医療倫理に明確に反するのではないでしょうか。
■ 根本的な問題:届出制は“法律で義務付けられた安全装置”
幹細胞治療を提供する医療機関は、再生医療安全性確保法に基づき、再生医療等委員会の審査を受け、厚労省へ「再生医療等提供計画」を提出し、その内容どおりに治療を行わなければなりません。これは、安全性を事前に確認し、治療の透明性を確保するためのものです。
再生医療等委員会で審査され、届け出た計画外の操作は“勝手な人体実験”と変わらないものです。今回のクリニックは、この最も重要なルールから逸脱し、計画書にない「NAD+を0.2mL」混入して患者へ投与していました。
計画外の薬剤を混ぜることは、「審査されていない治療を、患者に勝手に行う」ことに等しく、重大な違反行為です。
■ 医学的に未確立なものを「ただのビタミン」と扱う危うさ
院長は取材にこう答えている。
「NADは基本的にただのビタミン剤なので混ぜても全然問題ない」
しかし、厚労省や関係者は医学的評価が確立していない点を指摘しています。仮に安全性が高い成分であっても、「審査されていないものを、医師の恣意で患者に投与する」こと自体が危険である。
ルールを守らない医療は、どんな治療でも“安全”とは呼べない。
■ まじめに再生医療に取り組む医師への深刻な悪影響
再生医療は、日本が世界に先駆けて制度化した「これからの新しい医療」であり、その発展には社会的信頼が不可欠です。しかし、このように法令違反、恣意的な操作で体感を演出するために混入が行われれば、まじめに計画通り治療を提供している医師たちが迷惑を被る構図になりかねないのです。
不正行為が一つ表に出れば、「再生医療=怪しい」「幹細胞=危ない」という偏見が社会に広がり、新しい医療の成長を妨げるだけでなく、本当に助かるはずだった患者の選択肢をも奪いかねないことを今回に医師には自覚して欲しいものです。
■ 再生医療の未来を奪いかねない
再生医療は近年急速に発展し、手術しかないと言われた人、従来治療で改善しなかった人に新しい選択肢をもたらす可能性を持ちます。その一方で、今回のように不適切な施術を行う一部の医療機関の存在が、社会からの信頼を大きく損いかねません。
たとえば、“再生医療=危険” “幹細胞=怪しい”という誤解や偏見を広め、真剣に診療に取り組む医師たちを巻き添えにします。業界全体にとっても極めて深刻な影響をもたらします。
■ この問題が示す「再生医療の信頼を守るための覚悟」
今回のNAD無断添加問題は、単なるクリニックの不祥事ではありません。日本の再生医療の未来を左右する“信頼”を揺るがす行為ともいえるものです。
- 再生医療安全性確保法は、患者を守るための制度
- 計画外の操作は法律違反であり、危険
- 医師の利己的判断で治療内容を変えることは許されない
- まじめに取り組む医師の努力を踏みにじる
再生医療は新しい希望の医療であり、発展を妨げる行為は見過ごされるべきではありません。
■ まとめ:再生医療の未来と困っている患者を守るために
今回のNAD無断添加問題は、単なるクリニックの不祥事ではありません。
それは 患者の信頼を裏切り、再生医療の根幹を揺るがす行為 です。
再生医療安全性確保法により、治療内容は「厚労省へ届け出た計画書どおり」に提供することが義務化されています。このルールは、医師を縛るためではなく 患者の安全を守り、新しい医療を正しく発展させるため に存在します。
しかし、個々の医師が利己的な判断で治療内容を変えてしまえば、安全性の担保、患者の権利、まじめに取り組む医療者の努力といった、すべてが無に帰しかねません。
再生医療は、これからの医療に大きな可能性を持つ領域です。だからこそ、 正しい手順・透明性・法令遵守 が欠かせません。一部の逸脱行為によって、真摯に向き合う医師や患者が損なわれることがあってはならないのです。
再生医療の未来を守るために必要なのは、「誠実な医療を積み重ね、患者との信頼を維持する姿勢」です。今回の事案を機に、医療現場全体が改めて原則に立ち返り、患者にとって安心できる再生医療の社会実装へ向けた歩みを継続することが求められています。
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NAD⁺とは?NAD⁺(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)とは、すべての細胞内に存在する補酵素で、エネルギー代謝やDNA修復、ミトコンドリア機能の維持に不可欠な物質です。加齢とともに体内量が低下することが知られ、一部では「抗老化」や「代謝改善」を期待する声もありますが、ヒトにおける臨床的有効性はまだ十分に確立されていません。医療目的で投与する場合には、安全性評価や使用根拠を慎重に確認する必要があります。 再生医療で、NAD⁺を混ぜることで治療効果が向上するという臨床的エビデンスは存在しません。そのため、届け出計画に書かれていない状態で効果を高める意図や耐寒性を向上させるためにNAD⁺を無断で患者に投与する行為は、法令上も問題があると指摘されています。 |









