再生医療の治療中に患者が死亡|厚生労働省が医療機関に行政処分

2025年8月、再生医療の提供中に50代女性が死亡した事案を受けて、厚生労働省が該当クリニックおよび細胞加工施設に対し、再生医療安全性確保法に基づく緊急命令を発出しました。

患者死亡により緊急命令が出されたのは、同制度開始以降初のケースであり、再生医療に関心のある方々にとっても重要な事例といえます。

■ 本件は厚労省による公式な緊急命令による対応事案です

本件は、再生医療の施術中に患者が死亡し、厚生労働省が初めて緊急命令を発動した事例です。
安全性の観点から、当該医療機関および細胞加工施設に対し、再生医療の提供および製造の一時停止が命じられています。
原因の詳細は現在も調査中であり、現時点では再生医療全体の問題とするには慎重な姿勢が求められています。

■ 背景|再生医療中の患者死亡と緊急命令の経緯

2025年8月20日、東京都中央区のクリニック「ティーエスクリニック(現・東京サイエンスクリニック)」において、慢性的な痛みの改善を目的とした自由診療の再生医療を受けていた外国籍の50代女性が、治療中に急変し心停止、その後死亡が確認されました。

治療では、患者本人の脂肪から採取・培養された幹細胞を静脈注射で体内に戻す処置が行われていたとされています。

8月27日、医療機関から厚労省に対して死亡報告が提出され、同省は8月29日付で下記2機関に緊急命令を発出しました。

  • 医療機関:一般社団法人TH(現・一般社団法人日本医療会)/ティーエスクリニック(現・東京サイエンスクリニック)
  • 細胞加工施設:コージンバイオ株式会社 埼玉細胞加工センター

厚労省は、「治療との因果関係は未確定だが、否定できない」として、同様の治療の一時停止と、原因の徹底究明が必要であると判断しました。

■ 問題の治療内容|脂肪由来幹細胞の静脈投与

報道や厚労省の発表によると、本件の治療は以下のような再生医療です。

  • 採取部位:患者自身の脂肪組織
  • 細胞種:脂肪由来間葉系幹細胞
  • 投与方法:静脈注射による全身投与
  • 適応目的:慢性疼痛(体の痛み)改善

死亡原因について、医療機関側は「アナフィラキシーショックの可能性」を報告していますが、解剖結果や第三者の判断を待つ姿勢を示しています。

■ 行政対応|再生医療安全性確保法に基づく初の緊急命令

厚生労働省は、再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)に基づき、以下の措置を講じました。

  • 当該医療機関に対し、該当治療および類似治療の一時停止命令
  • 当該細胞加工施設に対し、該当細胞の製造および類似工程の製造停止命令

死亡事案に基づく緊急命令は制度開始以来初の事例であり、制度運営やガバナンスの見直しに繋がる可能性があります。

■ 今後の対応と再生医療への影響

本件は、以下の観点からも注目を集めています。

  • 緊急命令の発動が制度施行以来初
  • 細胞製品の製造工程の透明性と安全性の重要性
  • 自由診療であっても行政処分の対象となる可能性
  • 再生医療のガバナンス強化の流れ

厚労省は今後、現場への立ち入り調査を含め、詳細な原因究明と再発防止策の検討を進めると発表しています。

■ まとめ|制度の信頼性を支えるために

本件は、再生医療の現場における安全管理体制、細胞加工の適正性、患者説明と同意のあり方など、多くの示唆を含んでいます。
制度としての再生医療の信頼性を維持・向上させるためにも、中立的な立場からの事実把握と冷静な情報発信が求められています。

再生医療相談室では、今後も引き続き、行政対応・制度動向・安全性に関する正確な情報をお伝えしてまいります。

  • 現状:死因は調査中。厚生労働省は原因究明と再発防止を目的に、一時停止命令を発出。
  • 以上事実のみを時系列で整理。

 

■ 参考資料

よくある質問(FAQ|事実ベース)

 

Q&A|今回の事故に関し、よくある質問

Q1. 今回の死亡事故はどこで起きたのですか?

A.
東京都中央区にある「一般社団法人TH(現・一般社団法人日本医療会)/ティーエスクリニック(現・東京サイエンスクリニック)」という医療機関で起きました。
外国籍の50代女性が、再生医療の施術中に容体が急変し、死亡が確認された事例です。

Q2. どんな治療を受けていたのですか?

A.
患者自身の脂肪から採取・培養した間葉系幹細胞(幹細胞の一種)を静脈注射で体内に戻す治療です。
主に「慢性的な痛みの改善」を目的として実施されていました。

Q3. 死亡の原因は明らかになっているのですか?

A.
現時点では確定していません。
医療機関側は「アナフィラキシーショックの可能性」を説明していますが、厚生労働省は解剖結果や第三者の意見を待つ必要があるとして、原因を調査中です。

Q4. 厚生労働省はどう対応したのですか?

A.
厚生労働省は再生医療安全性確保法に基づき、以下の緊急命令を出しました。

  • 医療機関:再生医療の提供一時停止
  • 細胞加工施設:細胞製造の一時停止

死亡事案に基づく緊急命令は制度開始以来初の事例です。

Q5. 再生医療そのものは危険なのですか?

A.
再生医療は、効果が期待される一方で、適切な手技・設備・管理体制が求められる医療行為です。
自由診療では厚労省の安全審査は義務付けられていないため、患者自身が情報を正しく理解し、信頼できる医療機関を選ぶことが重要です。

Q6. この事故で再生医療の制度自体が変わるのですか?

A.
今後、制度運用や安全基準の見直しが議論される可能性はありますが、現時点で制度が変更されたわけではありません。
厚労省は「今後も原因究明を行い、安全性の確保に努める」と表明しています。

Q7. 自分が再生医療を受けるときに、どうやって安全性を見極めればよいですか?

A.
以下の点を確認するとよいでしょう。

  • □ 医療機関が正式に届出をしているか(届出番号があるか)
  • □ どのような細胞を、どこで、どう加工しているかの説明があるか
  • □ 添加物(FBS、抗生剤、DMSOなど)の使用有無
  • □ 投与後の副作用やリスクへの説明があるか
  • □ アフターケアや緊急時の体制が整っているか

 

用語整理

  • 自己脂肪由来間葉系幹細胞:患者本人の脂肪組織から取り出した細胞で、体内に戻す治療に用いられることがある。
  • アナフィラキシー:薬剤や成分などが引き金になり急速に起こる重篤なアレルギー反応。
  • 緊急命令:再生医療安全性確保法に基づき、原因不明の死亡など重大事案時に、提供・製造の一時停止を命じる措置。

出典(記事作成の根拠)

  • 厚生労働省発表「再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について」(届出・名称変更日を含む)
  • 各社報道(NHK、時事通信、民放各局・新聞等)における事実部分(日時、機関名、手技の概要、緊急命令の初適用、調査中の位置づけ など)