
□前回のまとめ
第9回では2023年に死亡事故が起きたことで再生医療業界の問題となっている培養上清液を用いた治療を看板メニューとした自由診療クリニック(THE HUNDRED ロンジェビティハウス)を、再生医療学会元理事長の澤芳樹氏がオープンしたことに関する問題についてお話しました。
第9回の内容を要約すると
・培養上清液/エクソソームを用いた治療は現在、日本全国約700の医療機関で行われているが、医薬品医療機器等法の承認を受けていない自由診療であり、2023年には死亡事故も発生。
・再生医療抗加齢学会や日本再生医療学会は、すでに安全性に警鐘を鳴らす声明やガイダンスを出している。
・その中で、再生医療学会を代表する人物である澤氏が、安全性に疑問が残る培養上清液を使った自由診療クリニックを開設したこと自体が、非常に矛盾した行動であり問題。
第10回では、当該医療機関で用いられる培養上清液を製造するクオリプス株式会社(https://cuorips.co.jp/)についてお話します。
□クオリプス株式会社について
クオリプス株式会社(Cuorips Inc.)は2017年に設立された日本発の再生医療ベンチャー企業で、主にiPS細胞由来の心筋細胞シートの研究開発・製造・販売を行っています。大阪大学との産学連携を背景に、重症心不全患者向けの治療法としてiPS細胞由来心筋細胞シートの開発を進め、2020年から医師主導治験を支援しています。
また、同社は第9回で紹介したヒトiPS心筋シート由来の培養上清液の製造加工も行っており、当該製剤を用いてTHE HUNDRED ロンジェビティハウスで治療を行う予定でした。
□培養上清液ビジネス中止発表
クオリプス株式会社は本年4月11日、「培養上清液ビジネスに関するお知らせ」を発表しました。以下、内容です。
「当社の培養上清液ビジネスに関するお知らせ」
培養上清液ビジネスに関しては、近時、日本再生医療学会から注意喚起がなされるなど、環境に変化が生じております。当社は、このような状況を踏まえ、iPS細胞を利用した製品開発に注力することとし、培養上清液ビジネスに関しては、風評リスクの回避が可能であると判断するまで、当面、中断することと致しました。
株主、投資家の皆様に対するご迷惑等に関しましては深くお詫びすると同時に、風評リスク等を回避することが可能であると判断した場合には再開することもあり得ますが、時期的にはいつ頃になるかは定かではございません。
https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250411/20250403508464.pdf
澤芳樹氏およびクオリプス社は、業界各方面からの厳しい批判と風評被害を受け、風評リスクの回避が可能であると判断するまで当面中断すると発表しました。
日本再生医療学会からの注意喚起を理由にしていますが、その注意喚起を出した学会の中枢人物が別会社で培養上清液ビジネスを行い、「やっぱり風評リスクがあるので中断します」という発表に至る構図は、再生医療学会自身、さらには業界全体の信頼を損なう非常に大きな矛盾です。
先日発表された「YOKOHAMA宣言」
(https://www.jsrm.jp/cms/uploads/2025/03/01-YOKOHAMA-Declaration-2025%EF%BC%88%E6%97%A5%E3%83%BB%E8%8B%B1%EF%BC%892.pdf)
では、エクソソーム/培養上清液を用いた治療の是正のためと取れる「検証型診療」「無検証型診療」の基準策定が示されました。
しかしこの基準は、澤氏が行う培養上清液を用いた治療を肯定するための基準ではないかという疑念も生じます。
日本再生医療学会は国内最大の再生医療に関する学術団体であり、その発信力は極めて大きい存在です。
だからこそ、業界の発展のために公平無私な発信を続けていただきたいと強く願います。
この矛盾を放置することは、再生医療の未来を危うくするものです。再生医療学会には、患者と医療の未来を守るため、誠実な対応を強く求めます。